競馬の馬券の所得区分考察

ネット上で先週あたりから再燃している、馬券の払戻金の申告所得区分について考察してみたいと思います。 


 元来、所得税基本通達では、勝馬投票券の払戻金は一時所得とされています。

 (所得税基本通達34-1)

 次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。

 (1)懸賞の賞金品、福引の当選金品等(業務に関して受けるものを除く)

 (2)競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続行為から生じたものを除く) 

※~注記省略~ 


 また、所得税法に規定されている一時所得の算出方法は、次の通りです。

(総収入金額)ー(その収入を生じた原因の発生に伴い直接要した費用)ー 50万円


 この法令通達をそのまま解釈すると、競馬の払戻金は一時所得に該当し、その費用は払戻を発生させた掛け金のみが費用となることとなります。


 しかし、平成の終わりころ、これら法令通達を巡って「これら法令通達の取扱いによる課税処分は納得できない」という2つの裁判が提起されました。 


 【東京高裁平成28年9月29日判決】(平成29年12月20日上告棄却確定)⇒ 一時所得 

【最高裁平成29年12月15日判決】 ⇒ 雑所得 


 判断が分かれているように見えます。この判決の判断の分岐はどこにあるのでしょうか。


 <判決内容の一致点> 

料判決とも、次の内容では一致しています。 

1 営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得に区分される 

2 営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、

  ① 行為の期間

  ② 行為の回数、頻度その他の態様 

  ③ 利益発生の規模 

  ④ 利益発生の期間その他の状況等

を総合考慮して判断するのが相当である。


 <相違点判断要旨:一時所得> 

1 どのような選定方法に基づき、どの種類の馬券をどの程度の数量で購入したか、具体的な態様が明らかとならない

 2 一体の経済活動といえるようなものであれば、確実に入手できる信頼性のある資料が決定され、これが反復継続されているはずで、これらが明らかにされていない

 3 3年間のほぼ全ての土日において馬券を購入し、購入金額や払戻金額がいずれの年も1億円を超え、年単位の購入回数1500~200回、払戻獲得回数100~200回であったとしても、年単位の収支は多額の損失が生じており、一般的な馬券購入行為が連続して多数回行われたものに過ぎない。


 <相違点判断要旨:雑所得>

 1 予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組み合わせにより定めた購入パターンに従って馬券を購入している

 2 偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入することを目標としている

 3 6年間にわたり、1節数百万~数千万円、1年あたり合計3億円~21億円程度の多数の馬券を購入している

 4 6年間いずれの年も収支で利益を得、その利益は1800万円~約2億円に及んでいた


 この2つの裁判例を比較すると、判断の分岐点が見えてきます。

 「営利を目的とする継続行為というためには、ほぼ全てのレースの馬券を一定の購入パターンに従って購入及びその記録を残す必要があり、営利を目的とする以上は、その継続行為から多額の利益が出ている必要がある」


 このあたりが判断の分かれ目なのでしょう。(※あくまでも筆者の見解です)


 この2つの判決を受け、所得税基本通達34-1の注書は、次のように改正されています。


 (所得税基本通達34-1)

 ※~(1)(2)省略~

 (注)1 馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して定めた独自の条件設定と計算式に基づき、又は予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入し続けることにより、年間を通じての収支で多額の利益を上げ、これらの事実により、回収率が馬券の当該購入行為の期間総体として100%を超えるように馬券を購入し続けてきたことが客観的に明らかな場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。 2 上記(注)1以外の場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、一時所得に該当することに留意する。 3 競輪の車券の払戻金等に係る所得についても、競馬の馬券の払戻金に準じて取り扱うことに留意する。

 (参考文献:国税庁HP 競馬の馬券の払戻に係る課税について 平成30年7月:国税庁「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)平成30年6月29日国税庁長官発遣通達:最高裁平成29年12月15日判決:東京高裁平成28年9月29日判決) 


(この記事は、黒猫菩薩のブログ@名古屋の税理士 2022.6.7記事と同内容です)

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